「不眠には酸棗仁湯(さんそうにんとう)」
と聞いて飲み始めたけれど、思ったほど眠れるようにならない……。
そんな声を相談の中でよくお聞きします。
ドラッグストアでも手に入りやすく、不眠の漢方薬として名前が知られている酸棗仁湯ですが、実は「万能の不眠薬」ではありません。
中医学では、不眠にはいくつものタイプがあり、酸棗仁湯が力を発揮できるのは、そのうちの一つのタイプに対してだけなのです。
こんな不眠、心当たりありませんか?

一口に「眠れない」といっても、その中身は人によってさまざまです。
- なかなか寝つけず、布団の中で何度も寝返りを打ってしまう
- 眠れても夢ばかり見て、ぐっすり眠った感じがしない
- ちょっとした物音や気配ですぐ目が覚めてしまう
- 夜中に目が覚めると、そのまま朝まで眠れない
- 日中も体がだるく、やる気が出ない
- イライラしやすかったり、逆に驚きやすかったりする
同じ「不眠」という言葉でも、体の中で起きていることはタイプによって大きく違います。
だからこそ、同じ漢方薬を飲んでも「効く人」と「効かない人」が出てくるのです。
中医学から見た「不眠のタイプ」、そして酸棗仁湯が効くのはどこか
中医学では、不眠は「心(しん)」という、精神活動をつかさどる働きが乱れることで起こると考えます。
ただし、心を乱す原因は一つではなく、代表的なものだけでも次の5つのタイプに分かれます。
① 心胆気虚(しんたんききょ)タイプ ― 酸棗仁湯が最も得意とするタイプ
ちょっとしたことでビクッと驚きやすく、常にビクビク・ソワソワしてしまう。
動悸や息切れ、寝汗、疲れやすさを伴う。これは「心」と「胆」の気(エネルギー)が不足し、精神を落ち着かせる力が弱っているタイプです。
酸棗仁湯はまさにこのタイプ―気を補いながら心を鎮める処方―のために作られた漢方薬です。ここに当てはまる方には、酸棗仁湯はしっかり効果を発揮してくれます。
② 心腎不交(しんじんふこう)タイプ
寝つきが悪く動悸や物忘れを伴い、加えてほてり・寝汗・のぼせ、耳鳴り、腰のだるさなどがある。
体を潤す力(腎の力)が不足し、余分な熱が上にこもって心を乱すタイプです。
③ 肝火擾心(かんかじょうしん)タイプ
イライラして怒りっぽく、目が充血する、口が苦い、便秘がちといった症状を伴う。
ストレスで「肝」に熱がこもり、その熱が心を乱して眠れなくなるタイプです。
④ 痰熱擾心(たんねつじょうしん)タイプ
胸のつかえ感やムカムカ、げっぷ、口の苦さ、頭の重さを伴う。
飲食の不摂生などで「痰(余分な水分や老廃物)」が熱を帯び、心を乱すタイプです。
⑤ 心脾両虚(しんぴりょうきょ)タイプ
寝つきが悪く目が覚めやすい上に、食欲不振や倦怠感、顔色の悪さ、お腹の張りや軟便を伴う。
「脾(消化のはたらき)」が弱って血が不足し、心を養えなくなっているタイプです。
このように見ていくと、酸棗仁湯がぴったり合うのは①の心胆気虚タイプに限られることがわかります。
②〜⑤のタイプの方が酸棗仁湯だけを飲み続けても、狙っている場所とずれてしまっているため、効果を実感しにくいのは当然のことなのです。
今日からできること

タイプを問わず、共通して意識していただきたいことをいくつかご紹介します。
- 就寝1時間前はスマートフォンやパソコンの画面を控え、心を興奮させないようにする
- 寝る前の熱すぎるお風呂やカフェインは避け、心と体を落ち着ける時間をつくる
- 手首の内側、小指側にある「神門(しんもん)」というツボを軽く押してみる(心を落ち着ける作用があるとされます)
- 就寝・起床の時間をなるべく一定に保ち、体のリズムを整える
ただし、これらはあくまで補助的なケアです。
根本的に眠れる体質に近づくには、ご自身がどのタイプの不眠なのかを見極めることが何より大切です。
ひとりで見極めるのは難しいからこそ
「自分はどのタイプなんだろう」「今飲んでいる漢方薬が合っているのか不安」
これは、症状や舌・脈の状態などを丁寧に診なければ、なかなかご自身だけで判断できるものではありません。
厚麗堂薬局には、中医学の専門知識を持ち、不眠のご相談を数多く手がけてきた相談員が在籍しております。
酸棗仁湯が合わなかった方も、今の不眠がどのタイプに当てはまるのかを一緒に見極め、あなたの体質に合わせて漢方薬を調整していくことができます。ぜひ一度、ご相談ください。
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