婦人科の基本漢方は「当帰芍薬散」じゃない?
本当に知ってほしい「四物湯」の話
「婦人科の漢方といえば何ですか?」
こう聞かれたときに、当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)
を思い浮かべる方は多いのではないでしょうか。
実際、当帰芍薬散は月経不順や月経痛、更年期など、
女性のお悩みでよく目にする漢方薬です。
しかし、中医学の考え方から「女性の体を支える基本」を考えると、
ぜひ知っておいてほしい処方があります。
それが、
四物湯(しもつとう)
です。

私は四物湯を「補血の基本方剤」と考えています。
女性の体にとって「血」はとても大切
中医学には、
「女子は血をもって先天となす(女子以血為先天)」
という考え方があります。
女性の体は、月経、妊娠、出産、授乳など、一生を通して「血」と深い関係があります。
そのため婦人科の漢方を考えるときには、
「血が足りているか?」
「血がきちんと巡っているか?」
という視点がとても重要です。
そこで基本となるのが、血を補いながら、血の巡りもサポートする四物湯なのです。
四物湯はたった4つの生薬からできている
四物湯は名前の通り、4種類の生薬から構成される、とてもシンプルな漢方薬です。
①当帰(とうき)
血を補いながら血の巡りを助け、女性の月経を整えるためによく使われます。
②芍薬(しゃくやく)
血を養い、筋肉の緊張や痛みなどを和らげる方向に働きます。
③川芎(せんきゅう)
気と血の巡りを良くする代表的な生薬です。
④熟地黄(じゅくじおう)
体を潤す「陰」と「血」を補います。
つまり四物湯は、
「血を増やす」+「血を巡らせる」
という、女性の体を考えるうえで非常に重要な働きを組み合わせた処方なのです。
実は、いろいろな漢方の「土台」になっている
四物湯が重要なのは、単に4つの生薬が入っているからではありません。
四物湯を基本として考えることで、さまざまな漢方処方へ発展させることができます。
たとえば、
十全大補湯(じゅうぜんだいほとう)
人参養栄湯(にんじんようえいとう)
などにも、四物湯の考え方が組み込まれています。
そのため漢方を勉強するときにも、四物湯はぜひ押さえておきたい基本方剤の一つです。
では「当帰芍薬散」はどう違うの?

婦人科でよく使われる当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)を見てみましょう。
実は当帰芍薬散には、
当帰 とうき
芍薬 しゃくやく
川芎 せんきゅう
が配合されています。
お気づきでしょうか?
この3つは、四物湯を構成する4つの生薬のうち3つなのです。
一方で、四物湯に含まれる熟地黄は入っていません。
その代わりに、
白朮(びゃくじゅつ)
茯苓(ぶくりょう)
沢瀉(たくしゃ)
が配合されています。
これらは胃腸の働きを助けながら、体にたまった余分な水分を外へ出す方向に働く生薬です。
つまり当帰芍薬散は、
①血を補う
②血の巡りを助ける
③胃腸を整える
④余分な水分を外へ出す
という特徴を持っています。
四物湯が「血」を中心に考えた処方なのに対して、当帰芍薬散は血だけでなく、体にたまった余分な水分にも目を向けた処方と考えると、違いがわかりやすいでしょう。
「女性だから当帰芍薬散」ではありません
当帰芍薬散はとても優れた漢方薬です。
しかし、
「女性だから当帰芍薬散」
「生理痛だから当帰芍薬散」
「妊活中だから当帰芍薬散」
と、すべての女性に同じように使うものではありません。
「女性の不調」でも、体の状態は一人ひとり違います。
漢方で大切なのは、病名や性別だけで薬を決めるのではなく、
その人の体が今どのような状態なのかを見極めることです。
だからこそ、婦人科の基本を考えるなら、
血を増やし、さらに血の巡りを良くする「四物湯」が中心となるのです。
四物湯を理解すると、当帰芍薬散をはじめ、さまざまな婦人科漢方の違いも見えてきます。